窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

星新一

私の家は窪地に位置していて、道に小さな階段があってそれを上って駅へつながる大通りにでる。いつだったか、その階段の向こうから本を読みながら歩いてくる少年と出会ったことがある。
彼は制帽をかぶり制服を着てランドセルを背負っていた。どこかの付属の小学校の高学年だろうか。紺色の半ズボンから出た足がキリギリスのようにぎくしゃくしていた。それほど段数はない階段の途中で私は少年とすれ違った。彼は階段を下りるときにチラッと足下を見ただけで、そのまま本を読みながら降りてくる。私は彼の読んでいる本の表紙を下から見上げた。それは星新一ショートショートだった。


先日読了したのは

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

最相葉月の本を初めて読んだ。星新一に魅かれて。私は最相葉月よりは年代が多少上だけれど、星新一に熱中した世代である。そうして後書きにあるのと同様に、私も内容はすっかり忘れていて、いつからか読まなくなっていた。
星新一について言えば、製薬会社の御曹司だったことは知っていたけれど、それ以上は知らなかった。
読んでいる途中で思ったのは、この本事態がミステリーのような、推理小説のようだということ。星新一という謎を解き明かしていく、そんな本だった。でもそこに解き明かされたのは、モノを作る人間にとってはおそらく共通の辛さを、この天才も抱えていたのだという、なんとも胸が痛くなるような事実だった。

読み終えて、おそらく誰もが思ったように、私もまた星新一を再読してみようと思った。お薦めです。