窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

黄色い風

風が強い。と、ラジオの天気予報では繰り返していたし、サッシではない我が家の窓ガラスもすごい音をたてていた。
外へ出ると、生暖かい。道を歩く人のコートが皆ハタハタとしている。北のほうの空が黄色に染まっていた。以前私が住んでいた方角。あのあたりも今日はすごいことになっているにちがいない。


毎年、今ごろから5月頃にかけて、風の強い日には数メートル先も見えないくらいの場所が、駅から家に帰るまでにいくつもあった。ちょうど畑にまだ何も植わっていなくて、しかも雨が少ないこの時期は、砂よりも細かい畑の土を巻き上げた風で視界が黄色くぼやけていたのだった。
砂はサッシを閉めていてもどこからともなく入り込み、しかもその家も古くて隙間があったから、家の中も口の中も猫の背中も皆ジャリジャリしていた。


それに比べれは、住宅地と木が多い今の家の辺りでは、風がいくら吹いてもたいしたことはないように思える。遠くに見える黄色い砂さえ懐かしい。

スーパーマーケットのビルの近くになると、風は巻き込むように吹いてますます強くなった。一番風が強く吹いていそうな場所に立って、誰かを待っているらしい波平のような頭髪のおじさんが、身をよじるようにして髪を押さえていた。