窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

まだ寒い

灯油屋さんの笑瓶が「オジサンさぁ、もう職業替えしようかと思ってんのぉ。」と、言う。石油価格の高騰でこれからのエネルギーは電気に変わっていくだろうという話。「お金持ちは太陽光発電とかするでしょぉ?もうこのままじゃオジサンやってけないのよぉ」笑瓶は相変わらずおねえ言葉だ。「何になるの?」と、私が訊くと「やっぱり食べ物屋だと思うの。食べ物はどんなときでも変わらず必要だもんね。」と。
 街道沿いでラーメン屋をやろうかと思っているのだそうだ。でもそれにはやはり場所が問題で、目をつけている場所があるのだけれど地代が高いので思案中だという。「私も職替え考え中」と、私が言うと、「定食屋がいいよぉ。駅の向こうに女性が3人くらいでやっているところがあって、けっこう流行ってるから下見に行ってくれば?」と、勧められた。そうさのう・・・。

3月に入って、近所で猫を見かけることが多くなった。この間までウォーウォーと鳴きながら歩き回っていた頭の小さな黒猫は姿を消したのだけれど、歩いていると色んな猫とすれ違う。そうして皆速足で歩いていて、忙しそうだ。
トットトットトッ・・・」と、私はいつものように、猫を見ながら彼らが歩く速度に合わせて口の中で言ってみる。でも、この辺りは住宅街なので猫はすぐに家の陰にひょいと隠れて見えなくなってしまうので、「トッ、トッ」で終わってしまったりする。そんな中で京塚さんだけが、呑気そうだ。道の向こうで小雁さんが呼んでいても、ゆーらゆーらとしながら歩いている。
私の家の猫は、家の中で走っている。ご飯が無かったりトイレが汚れたりする時に。まるでビーグル犬の仔犬のように走るので、廊下の敷物がいつもずれている。