窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

カマキリ


少し前のこと。今日のような青い空だった。
公園の裏手には小さな山があり麓にそれ程大きくない畑があり、緩い起伏のある人が一人通れるくらいの狭い路地を挟んで、住宅地がある。私は時々その路地を通る。少し上り坂になった場所を歩いていると、どうしても目線は上の方に向く。その日は真っ青な空が見えた。そうして、空には鮮やかなエメラルドグリーンのオオカマキリがぺたんと貼り付いていた。オオカマキリが・・。
その辺りには夏の初めからジョロウグモの巣が張られていて、オオカマキリはそこにかかってしまったのだ。巣には大きなジョロウグモがいる。黄色と黒の縞のやつだ。クモもカマキリも全く動かない。もっとも双方とも普段から獲物を狙ってじっと動かずにいるわけなのだけれど。この場合、どちらが獲物になっているのか。
このクモの巣に虫がかかっているのを見たのは初めてだ。畑の脇に植えられている樹と住宅の塀からはみ出しているハナミズキの枝の間に張られている巣で、日当たりも見通しもよく立地条件はそう悪いとは思えなかったのだが、虫の通り道としては良くなかったのかもしれない。そんな巣にカマキリが・・・。よっぽどドンクサイやつなのか。それともカマキリの方がクモを食べようと近寄っていったのか。見定めたい気もしたのだけれど、仕事に急いでいた私はそのまま通り過ぎた。

翌日路地を通ると、クモの巣は無くなっていた。カマキリが勝ったのか?と思ったけれど、その数日後にはまたクモが巣を張って獲物を待っていた。カマキリは食べられてしまったのか、それとも脱出したのか・・。カマキリの体長はクモの3倍はあったなー。誰かに訊いてみたいけれど、そんなことは誰も知りはしないだろう。だいたいその狭い路地は駅への近道で、通る人は皆急いでいるのだ。

公園で誰かに訊いてみたいことは、もうひとつある。秋口に現われたカルガモのつがいのことだ。数日間は見かけたのだけれど、その後全く姿を見ない。休みの日にドカドカと立ち入り禁止の池の奥まで入ってくる子供どもに嫌気がさして、もうひとつの大きくて奇麗な池のほうに行ってしまったのか。それとも近所を徘徊する私の家の猫によく似たハイエナ模様の飼い猫や、実はけっこう気が強そうな京塚さんに襲われてしまったのか。くー。気になる。公園によく来ている人はいないのか。私は散歩をしている人に尋ねたい衝動にいつも駆られる。

橋の上には小さなベンチがあって、老人や赤ちゃんを連れたお母さんが、時々座っている。しかし皆長居はしていない。私が駅で買い物をして、帰りに通ると別の人達が座っていたりする。公園ウォッチャーの様なおじいさんとかいればいいのに〜・・・。
「市川がなればいいじゃん。」と、アシカ君の言う声が聞こえた気がした。