窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

駅前の再開発が始まって20年近く経つのだが、計画は変わったりまた元に戻ったりしながらも、ついに昨年辺りから本格的に商店街の路地は消え、更地になって魅力のない地域へとまっしぐらに向かっている。
まあ、それはそれとして。
工事が始まって程なくしてから、駅から少し離れたところにある500メートルほどの遊歩道の脇の植栽や木々が抜き去られ、どうしたことかと思っていたら、そのうち100メートルくらいに道端の簡易駐輪場ができ上がった。
元々この遊歩道はとってつけたような木が植えられていて、片側の高い塀には、お決まりのスプレーの落書きと、それを消すための有機溶剤の匂いが漂うこともしばしばという場所だった。落書きを防いでだいぶ形になってきたと思ったモッコウバラも含めて、緑がすっかり取り払われたときにはやはり驚いた。

駐輪場ができ上がったら、もうその朝から守衛さん達がいた。
シルバー人材センターの人らしい彼らは、10メートル間隔くらいにたたずんでいる。立っている人もいれば、パイプ椅子を持ってきて座っている人もいる。ベンチがある場所にちょうどいる人は、そこに腰を下ろしている。
私の家から駅へ向かうにはその遊歩道を通るのだけれど、けっこう起伏があり、早足で歩くと息も切れる。
駐輪場はちょうど息が切れてきた頃から始まり、遊歩道の出口まで続いている。
守衛さん達は私が前を通ると「おはようございます!」とか「いってらっしゃい」と声をかけてくれる。私もそのまま無視するのもなんだし、「ごくろうさま」と答えるのだけれど、何しろ息が切れてきていてぜいぜい言いながら答えることになる。そして一人の前を通ると、もうすぐ向こうに次の一人が見える。