窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

写真教室

少し雪混じりの雨が降っていた朝、駅へ行く途中公園の中を通ると、橋の向こうから板のようなものを持った毛糸の帽子にマスクの初老の男性が、傘もささずに歩いてくるのが見えた。そうしてその人は立ち入り禁止のロープを跨いで池の縁の奥に入っていった。
「うっしょ。しょっ」と掛け声をかけながら、池の縁の泥がたまった所に板のような物を何度も突き刺している。板からは枝が出ていて、どうやら枝付きの木を縦にスライスしたようなものらしい。泥が柔らかくて板はなかなか安定しないようだ。


彼はおそらくいつも公園でデジタルカメラを構える集団を指導している人だ。その集団は土日になるとやってきて橋一杯に並んでに三脚を立て、飛んでくる翡翠を待ちかまえているのだ。
池の縁にはおおよそ90度に曲がった枯れ枝が、不自然に何本も突き出ている。冬の初めよりも随分増えた。その枝に翡翠がとまると、カメラを構えた人達は一斉にシャッターを切るのだ。

帰りに公園を通ると、もう誰もいなかった。池の縁にも板はささっていなかった。
泥が多くて固定できなかったのか、それともさすがにそこに板が突き出ているは唐突だと思ったのかはわからない。


後日談


結局、板を取り付けた様子。やはり唐突。写真を撮る人は周辺はいらないのかもしない。



何度か見ていると、小さなブランコをつけたくなる。蛙用に。