窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

先日、久しぶりに兵庫教育大のF教授と話していて、今の学校の美術教育の話題になった。今、美術の時間はどんどん減らされていて週に1時間くらいとか。
美術の時間・・・。私は子供の頃に自分でも絵が得意だと思っていたし周囲からもそういうふうに見られていたけれど、美術の点数は良くなかったように思う。親が絵描きだったためか、先生達は「上手くてあたり前」というような感じで、私は殆ど無視されていた。だから中学も高校も美術の時間はそれ程好きではなかったし、あまり覚えてもいない。美大出の友達は、中学や高校の頃に美術部に入っていた。という人も少なくなかったけれど、そんなわけで私は美術部に入るなんて考えもしなかった。
今も美術の教師をやっている伴さんの話を聞いていると、こんな先生が美術の先生だったら楽しかったろうなあ。と思う。伴さんは、なんだか学園ドラマに出てくる先生のようなのだった。

銅版を曲線切りするときに、卓上糸ノコが欲しいといつも思う。銅版切りは原始的な刃物で、いくら銅が柔らかいからといっても、何枚も切っていると疲れる。しかし、卓上糸ノコはけっこう高価だ。それでいつものようにN君に相談した。N君は家具を作っている人なので、電動工具は一揃い持っているのだ。
糸ノコの按配を尋ねたところ「結局さあ、使ってないよ。」との返事。かなり重くて大きいので、仕舞ったままあまり使わなくなったそうだ。「試しに使いに来てみれば」と、言われたけれど、佐倉は遠い。
N君は佐倉に住んでいて子供達もまだ小さいので、皆で集まるときになかなか来られない。家具作りをしている彼は必然的に主夫でもあるので、子供達の送り迎えの時間には居なければならないのだ。
「今、子供は危ないものね。」と私が言うと、本当にそうだとN君も言う。
子供を一人で外に出せない状況。探知器みたいなものを持たせるようになるかも知れないという話。
「犬にチップを埋めるみたいに、子供にも埋め込んだりして。」と、私が半ば冗談で言うと、「本当だぜ。」と、N君は真面目な声で答えていた。
「大人が一緒じゃなければ子供を外に出さない。っていいのかなあ。」と、彼は言う。うーむ。子供の頃から目白や池袋近辺で遊んでいた私としては、想像がつかない。
私の家の近所の公園では、悪ガキどもが立ち入り禁止の池の辺りに入り込んでグチャグチャになって遊んでいるが、これはとりあえず平和な光景なのかもしれない。そんな話をしているうちに「あ、お迎えの時間だから」と、N君が言って電話を切った。
下の女の子はまだ年長さんだ。小学校を出るまで送り迎えが必要だったら、あと6年。大変だ。