窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

結局MOMA展に行かなかった。NYに行って見るからいいのだ。なーんて思っている。混んでいる展覧会が苦手。だいたい人込みがだめ。
私は椎名町という池袋と目白の間の町で生まれ育った。池袋と新宿が大好きで、造形大に入ったころは高尾の人気のないバス停に佇んでいるとあまりの寂しさに涙し、中央線で新宿が近くなりネオンが見えてくると心躍らしたものだった。しかし、今はどうだろう。卒業後、国分寺に住んだあたりからだんだんネオンから遠ざかり、人込みを避けるようになった。週末は大家さんが畑に出かけるトラクターの音に目覚めて、裏山を散歩してばかりいた。武蔵美ご用達の画材屋で、学生と間違われてニコニコと画材を調達し、都心に出なくても十分やっていかれた。もっとも、その頃は新宿の事務所で毎日アルバイトをしていたので、まだ都心にはでかけていたのだけれど。

そう考えてみると、やはり今の家に越してきてからが問題だ。池袋まで30分足らずで行かれるのだけれど、仕事も家でするようになったからうちあわせで出かける以外殆ど都心にでない。志ん朝師匠亡き今となっては池袋演芸場に通うこともないし、鳥飼が通っている下北沢の鍼にも私はリタイアして行かなくなった。都心に出かける用事が寄席と鍼ということだけでも、考えものではあるのだけれど。

今は午前11時。暖かいので窓を開けている。しかし何にも音はしない。さっきまでカラスが鳴いていた。あとは私がうつキーボードの音がするのみ。静か。猫は窓のそばで庭の見張りをしている。揺れている尻尾の先を見ていると眠くなる。いかん・・・。