窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

立春

夕べ染めておいた残り毛糸を輪にして軽く絞って、朝陽がさしてきた軒下に吊るした。まだ風が強かったけれど乾燥しているから乾くのも早いだろうと思った。2時間位して外を見たら、毛糸はきちんと並んで吊るされている。乾いてきたので色が少し薄くなっている。赤と黄色。オモチャみたいな色だ。10時過ぎると向かいの家の影になり、軒下は一度日陰になる。風も相変わらず強いので出かける前に取り込んだら、吊るした下の方が凍っていた。しかも先からツララが・・・。今日は立春北国の春は未だ遠い(嘘)
昨日、電車に乗って立川の世界堂に行った。越す前は何処へ行くのでも池袋を通っていたから、池袋のパルコの世界堂を利用していた。パルコの世界堂はけっこう品数も多くて、新宿本店に行かずともだいたいの用は足りていた。立川の方は今一つだし、立川だからわざわざ行くということになる。そうして、昨日買い物を終えて電車に乗った途端、膠を買うのを忘れたことに気がついた。ショック。膠を買うのがまず第一の目的だったのに。三千本膠は60円くらい。また電車に乗って行くのもいやだ。
10数年前にこの辺りに住んでいたときは、まだ立川には世界堂は無かったように思う。
最寄りの駅のそばに画材屋さんがあって、いつもそこで買っていた。その店の中はグチャグチャに品物が置かれていて、昔の、火事で焼ける前の新宿世界堂のようだった。去年戻ってきて、最初にその画材屋さんに行ったらもうそこには店はなく、100円ショップになっていて唖然とした。当時はまだバブルの頃。10年以上経って町はとても変わってしまった。それで、仕方なく立川まで出かけていたのだ。
帰ってから、タウンページとインターネットで最寄りの画材屋さんを検索した。市内にはないけれど、駅の側に以前あったその画材屋さんの本店が、一橋学園駅の近くにあるので今日、歩いていくことにしたのだった。
一橋学園は西武線沿線だ。線路伝いの一本道を行くと駅近くになって商店街が続いていた。駅の周りは西武線特有の雰囲気だ。私は生まれてから殆どを西武線沿線で過ごしてきたので、所謂西武信仰、池袋信仰から抜けきれていない。一橋学園駅辺りは、昔の豊島区や練馬の雰囲気といったところで、懐かしい気分にさせられる。しかし、北に向かって歩いているので風が冷たくて鼻水がでてきた。とにかく画材屋さんに着くまでは。と、わき目もふらずにサクサク歩いた。
目的の画材屋さんは昔の店のようにグチャグチャに品物が置かれていて、しかも安い。お店のお兄さんと昔の店の話をしたら、おじさんは亡くなってしまったので他の店舗は閉めたのだという。10数年前、おじさんがいつも私の顔を見て「学生だな?学割だよ。」と、値引きしてくれてたのを思いだし、ちょっと心が痛む。
膠をリュックに投げこんで、帰りはぶらぶらと商店街を通った。「桜餅」「柏餅」と書かれたのぼりがハタハタとしている。足早に通り過ぎる。少し行くと、また和菓子屋が。足早に通り過ぎる。八百屋でドロネギ200円。安い。これは買った。私はドロネギをぶら下げて、危険地帯を無事通りすぎて家に戻ったのだった。