窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

通貨

版画のポストカードをM亮に見せたら「おー、じゃあさー、これを飲むときに持っていって、皆に売って飲み代の代わりにしたら?」と言われた。そういえば、以前年末企画会で集まった人達の何人かは、自分が作ったものを仲間内に売ったりしてたのだ。私はその時小冊子を作って持っていった。アシカ君達はCDを作っていた。「レアだぜ。」って、これ以上レア物は無い。10数人の集まりなのだから。
今後私は飲み代を作品で払う。ということにしたらどうだろう。
「じゃあ、今日はこの絵で。」って。
そのうち皆それぞれ私の版画で支払うようになったりして。
「お釣りはポストカード3枚ね。」
勿論、そんなのはお店じゃ通用しない。これは地域通貨だ。そして造幣局は私だ。
・・・・また、バカなことを考えてしまった。



今日は猫が初逃亡してしまった。
私が二階にいた時、猫は階段の辺りでうぉーうぉーと吠えていたのだが、無視していたら静かになって、下に降りてみたらいなかった。玄関のドアが開いている。ドアの鍵が緩んでいて時々開いてしまうのだ。外を覗くと、左隣の家の向こうの草むらにピント立ったしっぽが見えた。近づくとトットッと逃げる。仕方がないので、私は家に戻って裏の窓を開け、また玄関の方に戻った。
猫は今度は路上に出ていて、右隣の家の前に停めてある車の下に入ってしまった。これはまずい。この辺りは以前の家とは違い住宅地で、見通しが悪い。前の家の周りは畑ばかりだったので、けっこう遠くにいても猫の姿がポツンと見えたものだが。
車の下を覗くともう猫の姿はない。そうして、もっと遠くでおぅーおぅーと、鳴く声がする。声は、向こう隣の家の方から聞こえる。行ってみると、その家の玄関先の生け垣の隙間から黒い頭が動いている。呼んでも来ないのはわかっているし、これ以上待っていてはドンドン遠くに行って迷ってしまうに違いない。仕方なく人様の家の生け垣の隙間に手を突っ込んで猫の首をつかめて引っ張り出そうとした。引っ張っている間中、相変わらず大声をあげている。しかし身体が太いので生け垣の枝に引っ掛かってなかなか出てこない。「うぎゅーぅ」と、変な声をあげて身体を硬くしているのを無理やり引きずり出した。
家に戻ると何事もなかったように餌を食べていたが、一度外へ出てしまったのでまた出たがることだろう。裏の川にでもはまったら大変だ。気をつけねば。と、私は猫をにらみながら思った。猫はそんなことは知らぬ顔で絨毯で爪を研いでいた。