窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

ハケ 

 明け方、以前住んでいた清瀬の家の前にいる夢を見た。私が自分の家だったところの玄関前に立っていると、子猫の声がして、見るとハケが嬉しそうに走り寄ってきたのだった。私が撫でてやると、ハケはすり寄ってきたのだけれど、いつものようにすぐに私の手の届くかとどかないかのギリギリの所に下がっていき、そこでじっとしていた。私が手を伸ばすと、伸ばした分だけ下がってしまうので、結局は届かない。最初に撫でてやったときの感触は、まるで物置から出した古いヌイグルミのように、クタクタとなっていて頼りないものだった。
 私は夢の中で、ハケを新しい家に連れていったほうがいいのかどうか迷っていたのだった。迷ったまま夢は覚めてしまったのか、そのまま深く眠ってしまったのかわからない。 目が覚めたときには忘れていたのだけれど、午後に家の猫を撫でていたらその夢を思いだしたのだった。