窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

朝、雨戸を開けると縁側にしおれたほうれん草が一束置いてあった。しおれ方を見ると朝置かれたものではない。たぶん昨日爆睡している間に、大家さんが来ておいてくれたものである。顔を洗ってからお礼を言ったら、窓も開け放して留守にしているのかと思った。と言われた。さすがに熟睡していたようだ。数時間の睡眠でも目が覚めたときにはけっこう元気になったので。

今日は暑い一日だった。台風のせいなのか風も強い。夕方、日が落ちてから、庭の風通しをよくしようと一番うっそうとしている月桂樹を刈り込んだら、妙な形になってしまった。月桂樹の根元では、ニラとミョウガが幅を利かせている。裏庭に埋めた生ゴミから、カボチャの芽が出てきて、細い土地をうねって進んでいる。この季節は家の周りは騒がしい。見回ると、「水をくれ」だの「もっと刈り込んでくれ」「足下の雑草を抜いてよ」「日当たりが悪いぞ」「肥料がきれているんですけれど」などという陳情にあう。一つ一つ聞いて回ると、一日かかりそうなので、まあこれは明日にしよう。などと思い部屋に戻って窓から眺めていると、伸び切ったミョウガなどが恨めしそうに見ているような気がして、まことに後ろめたいのである。