窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

百鬼園俳句帖―内田百けん集成〈18〉 (ちくま文庫)

百鬼園俳句帖―内田百けん集成〈18〉 (ちくま文庫)

旺文社文庫では持っていないので、最近のちくま書店のもの。
ぱらぱらと、読んでくすりと笑う。
季節は春だけれど

   立春の大手まんぢゆう少し冷たき   

というのがあった。
昔、ヒロエさんが実家の岡山に帰省して、お土産に大手饅頭を買ってきてくれたことがあった。
百けんの随筆の中に何度か大手饅頭が出てきたので、多分私が頼んだのだろう。
(彼女は私が百けん好きなことを知って、その後も百けん先生のポスターを送ってくれたりしたのだ。)
しかし、実は当時の私はあんこものは得意ではなく、箱を開けるとぎっちりと並んだ、いかにも甘そうな大手饅頭を見て、おののいたものだった。
大手饅頭を食べたのは、その時限りだったけれど、ぴたぴたと柔らかいあんこの感触を思い出す。
この句を読むと、百けんは本当に大手饅頭が好きだったんだなあ。と改めて思う。大手饅頭は百けんにとって岡山そのものだったのかもしれないけど。