窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

小心者

病気で毛が抜けてしまいすっかり小顔になってしまったデカオがいなくなった今、タロウはこの界隈では一番大きな猫のように思える。

けれど、あいかわらず気が小さい。


先日も室内の窓辺に置いてやった餌を食べているときに、窓の外を他の猫が通った。タロウは顔を上げたまま固まっている。外の猫は別に威嚇するでもなく、ただゆっくりと歩いているだけなのに。
固まったタロウの半開きになった口から、食べかけのキャットフードのかけらがポトリと落ちた。
タロウ、と、私が呼ぶとまた食べ始めたのだが、耳があちこちの向きに動いて落ち着かない様子。そうして、あっという間に身を翻して廊下へスタコラスタコラ。
こら、どこへ行く。と、私が廊下を覗くともういない。嘘でしょ。と、階段を見上げてもいない。
2階に上がってみると、窓辺で寝ていた家の猫から猫パンチ連射をくらって、戸惑いつつ窓から外へ出ようとしているタロウがいた。