窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

引っ越し2

前日からの雨で鉢植えが水浸しになっていた。今朝もまた小雨。裏の水路の道をアーニャがいつもよりも少し大きな声で鳴きながら小走りに駆けていった。

鉢を移動したりしていた私が顔を上げると、水路から一段高くなっている金網の向こうのアスファルトの道路を、アーニャが白くてつるりんとした、まるで水風船のような仔猫をくわえ歩いているのが見えた。自分の身体の半分くらいも仔猫を引きずらないように、顔を高く上げて姿勢の良い馬のようにシャンシャンとアーニャは歩いている。模様からするとみちのようだ。どこへ連れて行くのかと思って見ていたのだが、そのまま私の視界から消えた。
次に見えたのは私の家の右隣のアパートの下の草むらだった。水路までは少し距離もありフキのような葉の植物や雑草が生い茂っていて周りからはよく見えないのだが、白いのやら斑やらがうごめいている。


最初に私の家から越していった先は、私の家を挟んでアパートとは逆の左側の一軒おいた隣だ。すぐ隣の家の前はペットボトルが積み上げてあり、猫が通る隙間はない。アーニャがみちをくわえて歩いていたのは、この水路の向こう岸の通りだ。その間には金網の塀がある。大きくなった猫をくわえて上るのは、大変だろう。あれからもう一度越して別の所で育てていたのだろうか。

アパートの出窓の下に入れば雨が降ってもそれほど濡れない場所だ。傍らには誰かが棄てた絨毯だかが積んであり小山になっている。アーニャはそこに座って身繕いをしているので、多分みちで最後だったのだろう。私の所から越していった時も、最後に運んだのは、みちだった。みちは一番最初に産まれた子だが、何か順番というものがあるのだろうか。
身繕いを終えたアーニャは、見ている私に気がついて、「越してきましたよ。」と手を振った。