窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

ずんさんと花梨さん夫婦がやってきた。猫を引き取りに。
私は彼らが来る前に「さあさあ、皆綺麗にして気にいってもらいましょうネー。」と、顔の汚くなっていた子は拭いてやって準備を整えた。

まずは部屋の窓から外にいる猫達をみせた。すると、「子猫・・じゃないね、もう。」と、二人は顔を見合わせている。「いやいや、まだ中身は子猫。性格は子猫。」と、私は外に出て、まずはアーニャを拾い上げて部屋の中に入れた。
アーニャは普段から臆病なので、想像していたリアクションではあったが、まあ一応顔見せという感じで。そうして次は余裕でタロウをつかまえて部屋に引き入れた。
タロウとぎいやんは、普段から私が窓を開けるとすぐにブレーメンの音楽隊状態を崩して、そのままドヤドヤと部屋に入ってきて足踏みをしながらグルグルいうほどに慣れているのだ。
が、しかし・・部屋に引き入れたタロウは脅えきって固まってしまった。4匹の中では一番大きくて力も強いのだが、パニック状態で窓を駆け登りアタフタしているので外に出した。
(こ、こんなはずでは・・・)と、私は多少焦ってぎいやんをつかまえたのだけれど、同じだった。
「えー、普段はすごく慣れているのに」と、私は携帯で撮った、ぎいやんの撫でられて嬉しがっている様子の映像を見せたのだけれど、ずんさんも花梨さんも、猫達の警戒心にショックを受けているようだった。

「もうここから動かない、という意志がありますねえ。」と、花梨さんは言うし、ずんさんは「大きいもんなあ。」と残念そうに見ている。
私はお見合いに失敗した仲人の気持ちだった。
3人でしばらく歓談をしたあとで、再度猫達をつかまえようと試みたのだけれど、彼らは私が外に出ただけでクモの子を散らすように、サーッと逃げてしまし、遠巻きに疑わしそうな目をこちらに向けていた。

結局、ずんだれさんたちは手ぶらで帰っていった。せっかく実家から猫用のバッグを持参してきてくれたのに。
彼らが帰った後、窓を開けても猫達は物置き小屋に入ったままで出てこなかった。