窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

物件下見

先日の雨の朝。公園の中を通ったら、橋の下から3羽のカルガモがツーっと泳ぎ出てくるのが見えた。「おっ、鴨じゃん。」と、傘をさした私が橋にさしかかると、カルガモ達はアタフタとして「朝なのに人がいるなんて、話が違うじゃないですか。」「いや、こんなことはめったにないことで・・。」「静かさがウリだと言っていたじゃないの」「いえ、お客さん、そうなんですよ、本当は。まあとにかく向こう岸に避難を・・・」と言いながら、3羽はお尻をフリフリ頭をフリフリ一目散で反対側の岸をめがけて泳いでいってしまった。
私が橋の真ん中で立ち止まり、逃げ去った鴨達を見ていると、チャチャチャチャチャと鳴きながらカワセミさんが飛んできて、私の1メートル程先の橋の手摺りにとまった。
「大丈夫ですよ、カルガモさん。ほらこんなふうに近くにいても怖いことなんて無いんだから。」と、カワセミさんが言ってくれたので、私も大きく頷き、橋の上から向こう岸で羽繕いをしているカルガモさんたちを見た。
「ここに住みついてくれるでしょうか。」と私がカワセミさんに尋ねると「なんとも言えませんな。」と難しい顔をして、カワセミさんもしばらくの間カルガモさん達を見つめていた。そうしてカワセミさんは、いつものように水面スレスレ飛行をしてから近くの葦の葉の先ににとまってゆらゆらとしていた。