窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

精霊

気温は下がったのだけれど、低気圧のためか蒸し暑い。それでも午前中に気晴らしに近くの公園へ行った。橋の手前でじっとたたずむ老人の後姿が。何をしているのか不明。まったく動かぬまま池を見つめている。身投げでもするのか?私がゆつくり近づいて、横目で様子をうかがうと、小さなレンズを目から離した。それで私も池の方を見ると、青い鳥が池の上を飛んでいる。カワセミだった。今日のカワセミは何度も水面すれすれに飛んでは、小さな水しぶきをあげて何かを捕まえようとしていた。私も橋の途中で止まってしばらく池を見ていたのだけれど、そのうち反対側から人がやってきて、カワセミはいなくなってしまった。
先日アシカ君が来たときに、散策した池の後ろの山に登ってみたけれど、蚊の大群に襲われたのですぐに降りた。そうしてまた池に差し掛かると、カワセミが橋の欄干にとまって池を眺めている。若冲の墨絵状態だったが、ほどなく高い木々の方へ飛び立ってしまった。カルガモが去ってカエルばかりと思っていたけれど、カワセミは健在だったのだ。

駅への途中に森があって、そこの中から水が沸いている。1年に2回しか開放していない。地元っ子だったアシカ君は「あの中には絶対になんかいるってかんじだぜ。なんかこう〜さぁ」と言った。私が「ああ、白鳥がいるみたいだね。サイトに載ってたよ。」と言うと、アシカ君は「いや、そういうんじゃなくて、なんかさぁ。こう・・・」と、子供に戻ったような顔で目をくりくりさせて言ったのだけれど、私がなおも「でも白鳥がいるんだよ。2羽。」と言うと、憮然としていた。アシカ君はきっと大きな森の中の、なんだかわからない不思議な空気のような精霊みたいな、そういうのを言いたかったのだ。男はロマンチストで女はリアリストなのだった。