窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

 鎮痛剤が効いている間に買い物へ。道端の白梅もそろそろ終りかけている。桜はどうだろうと駅への道の古い桜の樹をチェックしてみたが、まだ蕾もはっきりしていない。お彼岸なので、すぐ前の小さなお墓から線香の良い香りがし珍しく人も多い。住宅地のあちらこちらには寒桜や梅が咲いていてそれはそれで美しいのだが、桜でなければ………と思ってしまう。それは他の花に対して申し訳ないとは思うのだけれども。生暖かい風が強くてぬるいような春、桜が満開になると私は頭のハチが開いててっぺんからシューーーッとなにかが噴出するようなかんじがする。瞳孔も開いちゃって。変な人になる。早く桜の季節が来ないかと思うけれど、咲いてしまえばあっという間なのだ。

 家に近づいた頃に、向こうのほうから銀の大きめの尖ったセダンが走ってきて交差点で止まった。何気なく見ると小雁(に似たオジサン)が乗っていた。普段、道で見ているかぎりでは幌のついた軽トラが似合いそうな人なのに、運転席にまるでポンとセットされたような小雁は別人のように思える。大きなエンジン音をたててセダンは走っていった。それから私は小雁の家の前を通り、横目で京塚さん(に似た猫)を探してみたけれど見当たらなかった。京塚さんももしかしたらあの車に乗っていたのだろうか。