窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

 ノルウェイの森

ノルウェイの森」の再読を始めた。これまで村上作品の長編を再読したことはない。(「またたびだいたたま」とか、ああいうのは何度も読んで笑ってるけど)でも、いつもどの作品も、もう一度読もうと思ってはいる。時期が来るまで寝かせている。というかんじ。
「ノルウエィの森」を最初に読んだのは、発売直後だった。私はその日、第七病棟の演劇を観るために阿佐ケ谷に行った。阿佐谷に行くといつも入る駅前の書店で、上下巻2冊を買って舞台が開場になる前に小さな喫茶店で読みはじめた。
劇の内容はあまりよく覚えていない。その前に浅草の廃館になった映画館で上演された名作、「ビニールの城」のほうが良かった。ということは覚えている。阿佐谷のその場所も廃館直後の映画館だっただろうか。その後すぐにスポーツジムになってしまった。

私は帰りの電車の中でも「ノルウェイの森」を読み続け、翌日の夜には2冊とも読んでしまった。そうして、深く哀しい気持ちになった。絶望感という言葉がぴったりかもしれない。
とにかく、それから 1度も読んでいなかった。実生活でも多くの絶望的な気分を味わって、小説で更にそれを増幅する気にもならなかったせいもある。

そうして今上巻を読み終えた。おおかたの筋は覚えていたのだけれど、細かい部分は忘れていた。今は一つ一つの言葉や情景がとても現実的に感じられる。今の村上作品とは明らかに違うけれど、私はやはり「ノルウェイの森」は好きだ。