窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

家探しは続く(その11)

夕べはほぼ詰め終わった本と食器の段ボール箱に囲まれた部屋で、もうすぐこの生活も終わるのだ。と気合を入れなおしながら書類を仕上げ、図面の中で物の配置を考えて後悔がないかを確認した。何となく気が重かったけれど、それは越したくて越すのではないからだろう。

今の家の不動産屋に11時に担当者は来社するというので電話をしたけれど、来社してすぐに又出かけてしまったと言われた。すれ違い。このまま先に契約に行ってしまおうか。とも思ったけれど、なんとなく今の家の不動産屋に先に行ったほうが良いような気がしたのは、借りようと思っている家に残された地蔵のせいかもしれない。そうそう、返還してもらう敷金のこともあったし。


昼には戻るというし、暖かかったので久しぶりに家の裏の池で時間を潰すことにした。ここの見事な桜を今年は見ないのか。と、思いながら池を見ると小さい魚がたくさん泳いでいた。
エサをあげているおじさんに尋ねると、魚はウグイらしい。その人はこの公園を作った時に関わった人で、魚を放流した責任があるのでエサを時々やっているという。
ウグイに混じって誰かが離した外来種が泳いでいると、彼は嘆いていた。どの魚ががそうなのか教えてもらうと、それがずいぶん多いことがわかった。こんな小さな池でも、環境を整えるのは難しい。
エサをついばんでいる魚の群れを見ていると時間を忘れる。橋の上にたたずむ他の人たちも、皆放心したような表情で池を眺めていた。