窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

17歳

普段は耳が聴こえない事を忘れているのだけれど、複数の人と会ったりすると聴こえない事を再確認する。だからといって別にどうしようもないので、聴こえるほうの耳を無意識のうちに話している人の方にすいよせられるように向けたりして、何となく怪しまれているようだ。
家の猫は元からよく鳴くのだけれど、最近は私がなかなか気がつかないので、一生懸命鳴いていて申し訳ない事だ。多分実際はもっと大きな声を出しているのだろう。鳴いているのはわかるのだが前のようにすぐに相手をしないものだから、気がつくとなんだか憮然とした様子で傍らで私を見上げている。今は鳴き疲れて私の足下で眠っている。

猫は17歳になった。seventeenだ。時々書くように、本当に歳の割に元気でありがたいことだ。
毎日階段を駆け登り、窓の側においてある小さなちゃぶ台の上に乗って、向かいの家と車しか見えないあまり景色が良いとは言えない外を見ている。
猫じゃらしのオモチャを振ってやると、飛びついて遊ぶ。大丈夫なのかなあ。とこちらが心配になるほどに。
ベビーコーンのようにチマチマと並んでいる歯も、どうやら今もほぼ揃っているようだ。犬歯(?)は少しすり減ってきているけれど、時々私の手を(顔も)噛んだりするには十分だ。

この17年は、私にとってはけっこうヘビーな年月だった。まあ17年の間、ずっと山の人もいないだろうし谷だけの人もいないだろうけれど。
猫にとってもいろいろとあった。捨てられて、拾われて、大病をして、家猫になった。
小さな頭でどれほどのことを覚えているのかわからないけれど、時々、17年の時間が猫の全身に織り込まれているような気がして、悲しいような、何とも言えない気持ちになる。