窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

濡れ衣

このあたりの野良猫に皮膚病が流行っているらしく、一番ひどくなってしまったのはデカオだ。
顔の周りの毛が抜けて大きかった顔がすっかり小顔になってしまっている。しかし、毛が抜けた顔はなんだかさらに凄みを増した。
少ししたら、アーニャも頭のてっぺんが沙悟浄のようになってきたので、湿疹用の薬を色々と付けてみたけれど、いまひとつ。そこで家にあったホホバオイルをつけてみた。これは昔私の顔の湿疹がひどくなった時、その頃に行っていた美容院で何にでも効くということで買ったのだけれど、つけたらさらに悪化してしまったのでそのままほおってあったのだ。いつだったか、家の猫に傷ができたときにつけたら治りが早かったようだったので、今や猫専用になっている。
それでアーニャにもつけてみたのだけれど、結果はこれが芳しくなかった。
どうしたものかと思っていたのだけれど、ある朝アーニャは白い軟膏を頭にべっとりとつけてやってきた。どこかの家でつけてもらったらしい。その後何回かそんなことがあって、以前よりは赤味も収まったようなかんじだ。


デカオは、誰にも薬を付けてもらえない。だいたい、私も怖くて近寄れない。
デカオが来ると、ギイヤンもタロウもしばらくは姿を見せない。一時ギイヤンが歩けなくなったのは、デカオに腰をやられたからだったし、二匹とも仔猫の時からかなり痛めつけられていたのだ。
アーニャは別に気にならないらしい。デカオもアーニャに対しては、やや遠慮がちだ。仔猫が生まれてからのアーニャはデカオに限らず他の猫が遠くに見えるだけでも緊張感を漂わせている。


今朝もデカオが軒下にやってきた。デカオに気を取られて固まっている起き抜けの縞の仔猫を、捕まえようと私が手を伸ばしたら、仔猫が驚いて「ウニャッ」と叫び声を上げた。するとそれまで離れて他を向いていたアーニャがすっ飛んできて、デカオの前へ立ち、鼻を膨らませて今にも威嚇せんばかりになった。アーニャはデカオが仔猫になにかやったのだと思ったのだ。
濡れ衣を着せられたデカオは、何とも言えない顔をして後ずさりをしてしばらく座っていたが、そのまま立ち去った。
私は肩を怒らせているアーニャの背中をさすりながら、心の中で(ごめんよー、デカオ)と言ったのだった。


写真はミチ。頭の道がくっきりと。
なかなか器量よしになったのだが、警戒心が強くて私が窓から見ているだけでおびえる。