窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。


先日、ラジオをつけたら高校野球をやっていた。早実対横浜だったので、早実が勝てばいいな。と思っていたら負けた。早実のピッチャーは連投で気の毒だった。ラジオのアナウンサーが「横浜のエース、カワセミ、投げました。」と言うので、びっくりしたらカワスミだった。しかし、私の頭にはカワセミホバリングしながら野球をしている映像が浮かんでしまった。
公園の桜は、もう満開を少し過ぎた。早朝、6時くらいはまだ人はいないのだけれど、7時を過ぎる頃には三脚のついた大きなカメラが橋の上に立ち始める。朝、まだカメラが2台くらいの時に桜を見ていたら、カワセミが鳴きながら飛んできて桜の枝に止まった。それまで雑談をしていたオジサン達は慌ててカメラの後ろに立った。やはりカワセミを撮りに来ていたのだ。ウシガエルではなかった。
ぶらぶらと橋を渡ろうとした私は、その殺気立った雰囲気に押され、犬の散歩をしている女性と脇のベンチの辺りでカワセミを見たりオジサンを見たりしていた。カワセミが別の枝に移動したら、オジサンは慌てて重そうな三脚を担ぎ上げて小走りになってコチラに向かってきた。それがびっくりするほど必死の顔だったので、私もその女性も一、二歩後ずさりをした。女性が連れていたヨークシャーテリアは、リードがピンと張るくらいにパタパタと逃げまどった。
カワセミが桜の花びらをくわえて、長く伸びたカメラのレンズのちょうど正面辺りでホバリングしているのに、オジサンはカメラの足場を確かめるのに夢中で気がつかない。私と犬を連れた女性が「あ。」と言う間にカワセミは桜の枝に戻っていってしまった。

金網越しに森を覗くと薄桃色の煙のように桜が咲いているのが見える。今日は風が強くて、遊歩道のちょうど谷の辺りを通ると金網の上から桜の花びらが吹きだしてきた。もう森の中の桜も今年は終りだろう。1週間早かった。