窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

 SF

子供の頃、テレビの漫画が好きだった。覚えているのは色々あるけれど「宇宙少年ソラン」「スーパージェッター」「サイボーグ009」私が好きだったのはお姫さまものではなくて、絶対的に少年漫画だった。
数年前、造形の友達との間で話題になったのは、当時東京12チャンネルでやっていた、アメリカのアニメの話だ。筆で描かれているような簡単な線で、宇宙ステーションが舞台だった。ストーリーはたいしてなく、台詞も擬音のようなものばかりでナレーションが入っている。宇宙ステーションが舞台なのに、何故か原始人が出てくる。題名は不明。当時見たことがあったのは、私を含めた少数だけで「こんな絵だよ」とそれぞれが思いだしながら描いたイラストは、果たしてこれが美大出か?と思われるような情けない絵ばかりだった。(私も含めて)
そのアニメはチロリアンの捜索の結果コレだったのだけれど、皆は描いたイラストと本物との差に各々がく然としつつも意地を張り、「私のはソコソコ似てる。」「俺の方が本物に近い」と言い張ったものだ。
昔、通販生活の中でナンシー関がキャラクター等のお題を出して、イラストを投稿すると言うものがあった。「フランケンシュタイン」「ドラエモン」「オバQ」等・・・私は数回読んだだけだけれど「なんでこれが?」と吹きだしてしまうようなものばかりだった。
しかし、記憶を辿りながらそのテレビアニメのキャラクターを描いてからは笑えなくなった。いやいや、記憶とはナント不確かなものなのか・・・。(12チャンネルで放映されていたと言っているのは当然東京生まれのものだけであったわけで、そのアニメが放映されていた局も実のところさだかではない。)

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何の話か。SFの話である。私はSF小説というものを殆ど読んでこなかった。それほどジャンル分けをして読書をしていたつもりではないのだけれど、何故だろう。SF小説というもののイメージが宇宙ステーションを舞台にして首にマフラーをなびかせて円盤に乗っている人達・・・というイメージがあったからなのではないか。と、思う。そうして話はけっこう単純で・・・・みたいな。つまりはテレビの観すぎ?
SF映画は観た方だと思うのだけれど、それはけっこうエンターティメンと的な要素が大きい。SFという括りとは関係なく「ブレードランナー」は私の一番のお気に入りで、封切られた時にロードショーで見て、その後DVDでディレクターズカット版を観たりもしていた。それでも、あれはちょっと特別だから。と、思っていてやはり所謂SF小説なるものは、読まなかった。
ブレードランナーの原作のフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」も映画のイメージが壊れそうで、なおさら読まなかった。
しかし、M亮があまりにディックを絶賛するので先日読んでみた。彼には私は借りがある。私は半ば無理やりM亮に村上春樹を読ませたのだ。それで言うに従いディックを読んでみた。
近所の古書店には1冊しかなくて、まずは「高い城の男」から。これがSFなの?私の「マフラーをなびかせて円盤に乗って宇宙ステーションへ・・」というイメージは覆された。描かれているのは人間じゃん。しかも女がハードボイルド小説みたいにステレオタイプじゃない。
「面白かった。」と、M亮に話したらさっそく8冊貸してくれた。
初心者の私は指定された順番通り読むことにして「流れよわが涙、と警官は言った」「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」「ユービック」「地図にない町」「悪夢機械」「去年を待ちながら」と読み終えたところ。ここまででやはり一番好きなのは「アンドロイドは・・・」お話としては「ユービック」が断トツに面白かった。本を閉じたときに、「うーむ。完ぺき!」って思ったけれど再読したいのは「アンドロイドは・・・」のほうだった。
『映話』と言う単語に最初は馴染めなかった。テレビ電話のことだけど、なんだかこれじゃあ「おま訳」みたいで。しかし続けて読んでいると、これでなくては・・・という感覚になる。浅倉訳以外で「テレビ電話」なんて訳されていると、私は頭の中で「映話」と訳している。おそろしや。

続けて6冊読んだ。このまま読み続けていたら、時間や空間が歪まない小説は読めなくなってしまう。昔、時代小説ばかり読んでいたときに登場人物の台詞が「おぬし」とか「拙者」とか、名前が粂八とか忠吾とかじゃないと、がまんできなくなったように。
「去年を待ちながら」の訳者あとがきに、村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」の有名な記述が載っている。

「フォークナーとフィリップ・K・ディックの小説は神経がある種のくたびれかたをしているときに読むと、とても上手く理解できる。僕はそういう時期がくると必ずどちらかの小説を読むことにしている。

どうりで・・・。私が次に読むべきは、フォークナーか?


アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)
流れよわが涙、と警官は言った (ハヤカワ文庫SF)
高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
去年を待ちながら (創元推理文庫)