窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

先日、鮭のアラでフレークを作った後の骨を軒先の土のスペースに埋めて置いたら、ほどなくどこかの猫がやって来て、懸命に掘りだして食べ始めた。それ程浅いところに埋めたわけではなかったのだけれど、雨の後だったので他の匂いが薄まっている空気中に鮭の匂いは新鮮に漂っていたのかもしれない。その猫は部屋の中から見ている私に気がついて固まった。そういえば、越してきたばかりの1年前に見た猫に模様が似ている気もするが、ずいぶんと顔つきが険しくてノラの顔だった。
驚かしてもいけないと思い、私は猫の目線に近くなるように部屋の中でしゃがんだ。猫はまたバリバリと食べ始めて、時々上目遣いで私を見ていた。
家の猫が呑気そうに2階から降りてきたので窓の近くに押しやってみたら、何がなんだかわからない様子だったけれど、外の猫に気がついて慌てて機嫌の悪い時の低いうなり声を出した。そんな声をを出しているのに腰が引けている。外の猫は骨をくわえたまま家の猫をにらみつけている。家の猫はすぐにスタコラと部屋の奥に引っ込んでしまった。
そんなに沢山埋めたのだっけ。と、思うほど、長い時間猫は骨を齧っている。アラなので齧りがいがあるのだろう。そのうち、また家の猫が出直してきて、今度は自分から網戸の方に寄っていって「ルルルル・・」などと愛想の良い声を出していたのだけれど、外の猫はまた骨をくわえて固まったまま険しい顔で家の猫をにらみつけていた。膠着状態が続いて家の猫も諦めたらしく、自分のご飯をねだって食べて2階へ上がっていってしまった。

猫にも人気のある顔とそうでない顔があるのは確かだ。
去年まで暮らしていた家の周りにいた猫で、私の猫と親しんでくれたのはハケとアカくらいだった。親しんだと言っても、家の猫は外には出していないので網戸越しだけれども。顔の模様のせいだろうか。もう13歳くらいになるので、ずいぶん温和な顔つきになったとは思うのだけれど、それは欲目というものか。