窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

蛸が描けん

先日、友達のYちゃんから頼まれた蛸の絵がなかなか描けない。Yちゃんはノンベエで若い頃にはゴールデン街の裏手に住んでいたのだ。そんなところに住んでいたからノンベエになったのかもしれないけれど。
 彼は『居酒屋探訪』と言って、妙な(というか)店に連れて行ってくれる。一緒にゴールデン街のあたりを歩いていると、店のママさんたちが「あら、久しぶりね。」なんてYちゃんに声をかけてきたりする。「ここはよくきてたんだ」とYちゃんが言った店を通り過ぎながら横目で見たら、店内の正面の壁に田中小実昌の大きな写真が飾ってあった。
それで、Yちゃんは「この間の個展に行けなかったから、ヨーコの絵を買いたいんだけれどさぁ。」と言って、蛸の絵を私に発注したのだった。「切り身?」と私が尋ねると、「ちがうよぉ。丸ごと、生だよ。」とYちゃんは、「馬鹿言ってんじゃねえよ。」というような顔で答えた。だって、以前、雑誌の挿画で私が描いた徳利とお猪口の絵を気に入って買ってくれたので、それに合う蛸の刺身の絵かと思って。

私が生きた蛸を見たのは、10数年前。Kちゃんが突然カニを食べに行こうと言い出して、夜中に新潟に車で行ったときだった。朝の市場で蛸が丸ごと水槽に入っていたのを見たのが最後だ。あの蛸ももうとうに誰かにたべられてしまったのだなあ。気の毒に。

夕方の買い物帰り。薄暗がりの中で縞模様の小動物がうごめいた。「シマリス?」と思って近づいたら、縞模様のカエルだった。ぐえ・・・。近眼の度がすすんだらしい。