窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

小島信夫

保坂和志の新刊「小説の自由」を読んでいると「小島信夫カフカ」という記述が出てくる。それは「抱擁家族」と「うるわしき日々」について書かれている箇所で、なるほどと思うのだけれど、私が最初にそれらの小説を読んだときに思ったのは「私の友人夫婦そのものだ」ということだった。友人達は私と同年齢なので、この小説の中の夫婦よりも若いし病に倒れたりもしていないのだけれど、家にまつわる話や妻の言うことがいかにも私の友人が言いそうだし、夫の考えもまさにそうだろうと思いこれが「不条理」とされることであることはわかっているのだけれど私にとってはなかなかに現実的な小説だったのだ。これはおそらく彼らを知っている他の友人が読んでも同意してくれるのに違いないのだけれど、よく考えてみると他の友人夫婦も似たり寄ったりのところもあって、そう思うと私の周りはカフカの世界ということなわけでまことに小説を読むように面白いのだった。といっても、そんなことを書いていると「お前も十分そうだろう」と言われるに違いないけれど。
抱擁家族 (講談社文芸文庫) 抱擁家族 小島信夫
うるわしき日々 (講談社文芸文庫) うるわしき日々 小島信夫
オンライン書店ビーケーワン:小説の自由小説の自由 保坂和志著 ISBN:4103982055