窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

生卵の上を歩く

 ずいぶん前に中国人の先生に気功を習ったことがあった。それで上級クラスでは生卵の上を歩いたりできるようになる。と、先生に薦められたのだけれど、生卵が道いっぱいに敷き詰められている上を歩くことは死ぬまでに無いと思って入らなかった。関節を痛めて重いものは持ってはいけないのだが、持たざるを得ないことが日常にある。そんなときに、先生の言葉を思い出す。生卵を割らないで歩けるというのは、体重がかからないということなのではなかろうか。そう言ってくれれば入ったかもしれないのに。

 日曜だけれど曇っているせいか、公園の人もまばらだった。少し前まで何組もの親子連れが、立ち入り禁止の柵を乗り越えて池に入りザリガニを釣っていた。橋の真ん中に置かれたバケツには何匹ものザリガニがうごめいていた。私も子供の頃に、中野の哲学堂に行ってはザリガニ釣りをしていた。家に持ち帰って飼ってみても、じきに死んでしまい、庭はザリガニのお墓だらけになった。

 今日は人がいないせいか、カルガモの夫婦も橋のたもとまで来て呑気そうに泳いでいる。のぞき込んでいる私に気を取られた一羽が、池から上がろうとして滑ってまた池に落ちた。あれほどいたおたまじゃくしの姿はみえない。