窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

再読

薄曇り。向かいのペンキ屋さんが数人の職人さんと朝から仕事をしている。塗料をミキサーでかき回しているのだ。凄い音だが私自身も電気工具を使うので別に気にならない。以前版画制作のために借りていた長屋門の脇には、小さな鉄工所があった。時々長屋門に泊まり込んでいた私を鉄工所の人たち怪しく思っていたようだったし、私の方も気の荒そうな職人さんたちとは、挨拶は交わしてもそれ以上話をしたことが無かった。あるとき、銅版画用のウォーマーを作るために厚手の鉄板が必要になり鉄工所に頼みに行ったら、いぶかしげな顔をしつつも切って門の部屋まで持ってきてくれた。しかもただで。そうしてその後くらいから少しニコヤカに挨拶したり「お姉ちゃんは、何やってる人なの?」などと尋ねられたりした。10数年前のことだけれど、もっと昔のように感じる。違う時代。大正時代とか・・・。

 昨年辺りから、村上春樹の小説を時々読み返している。私はだいたい発売されてすぐに買うと殆ど一晩か二晩で読んでしまうので(確か「海辺のカフカ」さえも。)体力を消耗し、首が上がらなくなり、ぼう然自失という感じになる。そうして読み返すことはなく、分厚い単行本が本棚の奥底に沈んでいるのだ。昨年、ノルウェイを読み返し、羊3部を読み、今は一番好きな「世界終り・・・」を読んでいる。しかし「世界の終り・・」は単行本を誰かに貸したままなのか紛失し、後で上を文庫で見つけて買ってあった。もう10年以上も前に読んだので詳細は殆ど覚えていないが、ストーリーは知っているので丁寧に読む。それでも2日もあれば読み終ってしまうので今日は下を買いに。