窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

ビオトープ

 近所に池がある。水は澄んでいてそこにはたっぷりの泥が沈んでいる。橋の上から見ると小さな魚がチラチラと泳いでいるのが見える。誰かが捨てたビニール袋が1つ泥に突き刺さって立っていて、深緑の絵具のような色の藻が絡み付きその周りに魚が集まっている。葦が所々にかたまって生えていて今の時期はもう干し草の束のようだ。数週間前、葦の向こうにカルガモがいたのだけれど今日は姿が見えなかった。橋の反対側には小川が流れている。その周りには数珠草が生えている。小川も池も雨の後には増水して橋のすぐ下にまで水面が来て、水上公園のようになる。全ては子供の頃見たような池や小川だけれど、形が良過ぎて少ししらじらしい。所謂ビオトープ。橋はとても奇麗で小川のほとりに植えられている木々も未だ幼い。植物が育ったり色んなものが古くなったりして、しっくりと馴染む頃まで私はここに住んでいるのだろうかと思う。