窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

食べ物の夢

 刷らなければいけない版画のメモが、作業台の棚に貼り付けてある。それを見ているうちに棚に入っている本に目が行き、つい読んでしまう。恩地孝四郎の「装本の使命」名著。パラパラと読むような本ではないのでまた棚に戻して、メモを見つめる。刷らないとね。
 野菜は相変わらず高いけれど、ひところほどではない。先日、ブロッコリーの夢を見た。冷蔵庫を開けたらブロッコリーがぎっしりと詰まってこちらを見ていたという夢だ。私はびっくりしてドアを閉めたところで目が醒めた。別にブロッコリーが不足していたわけではないのに。
 食べ物の夢はあまり見ないように思うが、幼い頃はよく見ていた。伊勢丹の地下にあった定食屋だったか、所謂「キッチン○○」という感じの店のスパゲッティミートソースの夢だ。実際その店へは親に連れられてよく行ったのだ。確か、伊勢丹三越かも)の歯医者に通っていたのだったと思う。夢は、私がミートソースにかぶりつくところでいつも醒める。気がつくと私は愛用のサテンの小豆色の枕に噛みついているのだった。なにゆえミートソースにかぶりついたのかは、よくわからない。その頃も特にお腹を空かせて過ごしていたわけでもないし。しかし食べる前に目が醒めるので私はいつもがっかりしたものだ。そんなふうにハッキリと覚えているのだから、幼いといっても小学生くらいではないかと思われるかもしれないが、私の記憶はおぼろげながら2歳半から始まっている。「自分はもっと前からの記憶がある。」という人がいたので、私も一度その前の記憶を呼び戻そうとやってみたら、ひどい頭痛に襲われた。