窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

台風一過じゃなかった

 台風一過で天気も良かろうと思い夕べ洗濯をしたのだけれど、朝、雨戸を開けたら曇っていた。午後から森田氏の写真展を観に大宮へ。
 日曜の大宮は、人が溢れていて駅前の通りを歩くのも池袋のように人の間を縫っていかないとならない。細い路地の方が色んなお店があって楽しいのだけれど、混んでいるので大通りを抜けていった。ポエタには、これまで何度か友人達が個展をやっていたので行ったことはあったのだけれど、平日だったためか人はあまりいなかった。しかし、今日は満員の人。森田氏は一番奥のテーブルでIBMのノートパソコンを駆使して仕事をしていた。昔の彼なら信じられんことだ。
 奥のスペースに数十枚の写真が飾られていた。森田氏の写真を観るのは本当に何年ぶりだったろうか。これまで見せてもらっていたのは、全てモノクロだった。だから、DMでカラーの写真を見たときは意外だったのだけれど、実際に観るとモノクロの写真と共通していた。空間と光と視点。彼の写真には言葉をつけることは出来ないように思う。写真自体に物語があるのだ。彼の写真の光は皆暖かい。暖かくて切ない。何枚か観ているうちに泣きそうな気分になったのだけれど、振り返ったら森田氏が立っていたので、私は曖昧に笑った。
 被写体になっている場所は、遠い昔に偶然私が行ったことがある場所だったのだけれど、写真の中には私の中に現実に刻まれた記憶ではないもの。もっと根源的な記憶や経験や時間が刻まれているような気がした。もっと心の奥の奥のほうの。