窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

猫鳴くや

 窓を閉めると暑い。開けると電車の音がうるさい。2階にもエアコンを入れようかとも思うけれど、自然の風が好きなのだ。窓辺に植木を植えようかと思うのけれど、植木では防音にはならないようだ。しかし無いよりはましかもしれない。ウインドウガーデン計画をそのうちたてよう。
 今度の家は、庭は狭い。庭というか、軒先に土の場所があるくらい。しかし、そこに木が何本か植えられていて、笹も生えている。おそらく最初の持ち主は、和風の庭を造っていたのだろう。植えられている木は、1本は柘植のような木。もう一本はもしかしたらキンモクセイかもしれない。嫌な予感。私はキンモクセイが苦手なのだ。いずれにしても、まだ庭を造る所まで回復していないので、あとまわしである。
 テレビのアンテナがついていない。またテレビの無い暮らしをしてみようかと思う。新聞も取っていないから、ラジオとネットだけ。そうそう、オリンピックも終わったのだった。井上康生が負けた時点で、私のオリンピックは終わったのだけれども。
 雨が降ってきた。雷も鳴っている。窓を開けると向かいの家と家の間から、オレンジ色の電車が通るのが見える。近所の家の殆どは、出窓で2重窓だ。効果があるのだろうか。引っ越す前に庭の片づけを手伝ってくれたT氏は「都会に越してだいじょうぶかなあ。」とつぶやいていた。私は生まれてから20代まで山の手通りのすぐそばで暮らしていたので、騒音には慣れていると思っていた。しかし、人生の半分を東京の郊外で暮らしてしまい、すっかり田舎暮らしが身に付いたようだ。それはどうやら猫も同様だ。彼女は所沢で生まれて、その後ずっと郊外に暮らしてきた。お風呂の工事をするために業者が来ている間、美容師さんの家に猫を預けに行く道、遊歩道のある公園の中を通った途端、それまで鳴いていたのに大人しくなった。鞄の中から頭を出して、鼻をひくつかせている。草の匂いを嗅いでいるのだ。公園を通りすぎて大通りに出た途端に、また大きな声で鳴き始めた。