窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

 セミが遠くで鳴いている。色んな意味でギリギリの夏だった。
 近所に住む美容師の友人夫婦の世話になり、引っ越しは無事に終わったのだけれど、半月も前の契約時に確認を頼んでおいた風呂が壊れたままで入れない。結局美容師さんの家にお風呂を借りに行く日々が続いている。そうして、猫が毎日毎晩吠えている。環境が変わったから不安なのかとも思うのだけれど、そのわりに預けてあった病院から連れ帰ったら、ご飯も平らげトイレもちゃんとして、階段を駆けのぼりくまなく家中を探検していたーーー吠えながら。家の猫は元から声が大きい。それが精いっぱい吠えるからたまらない。「まーーーーーおおおおおおぉん」と、あちこちに向かって吠えるので。私はずっと睡眠時間があるんだかないんだか。というかんじでさすがに倒れそうになった。
 引っ越しても、部屋中ダンボールの山で、猫は鳴くし、サッシではない古い家は近くを走る電車の音が思いのほかうるさくて、これまで鳥と虫と猫の声くらいしか音がなかった場所からでは、猫でなくてもなかなか慣れない環境だ。
 美容師さんの家では、わざわざ私のためにお風呂をたててくれご飯も用意してくれる。彼女は夜半まで働いているのに申し訳ないことなのだが、疲れ切っている私には本当にありがたい。