窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

口琴

矢萩多聞さんの個展を観に夕方から大倉山へ行った。場所は大倉山記念館

 大倉山記念館に初めて行ったのは、多分ここが記念館としてオープンした10年程前だったように思う。私のサイトにも文章を寄せてくれている丹羽氏が、そのオープンを記念した美術展に出品していたので、友人達と観に行ったのだった。

 多聞さんの作品はペンで描かれた細密画だ。画面の中には不思議な生き物や植物達が、ひそひそ声で話しながらどんどん増殖しているようなかんじ。サイトにも何枚も掲載されているけれど、やはり本物の方が良かった。一緒に行った編集者の人は、職業病なのか絵を見ながら「この絵とこの絵は絵本になりそうだ。」とか「値段がどのくらいになるか」等と何度も言っていてなんだか気の毒な感じだった。
 今回私が特に楽しみにしていたのは、オープニングの夜だけ行われる口琴の演奏会であった。演奏者は田顔君と多聞さん。口琴の生演奏を聴くのは初めてだったけれど、けっこうはまってしまった。

 音を文字で表現するのは難しい。ビヨヨン、ブヨヨ〜ン・・・と書くとなんだか間が抜けているのだけれど、そんなかんじ。これが連続した音となって、聴いていると頭のてっぺんから何かが抜けていくようだった。一日中聴いていたら脳が揉みほぐされていくだろう。編集者にそう言ったら、彼女はなんだかノコギリの音みたいでおかしくて仕方がなかったという。まあ、聴く人によって色々だ。

 口琴の音はホーミーの声と似ている気もしたのだけれど、音によってはもう少し柔らかい。演奏方法は喉や口に共鳴させて音を出し、演奏者によって音が違う。楽器の作りがシンプルだからよけいにそれが際立つのだろう。昔々、ホルガー・シューカイのペルシアン・ラブを聴いて頭が柔らかくなったのと同じような感覚だった。口琴協会のサイトには、通販で色々なものが売られている。自分で演奏してみても、果たしてそのような感覚はえられるのであろうか。ホーミーも時々練習してみるのだが私はきちんとできない。それらしい声にはなるけれど、倍音ではないのだ。ただの潰れたようなルィーンーの音。あまりやっていると舌がつりそうになる。口琴はどうだろうか。今度田顔さんに尋ねてみようかと思う。