窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

最近猫ナンパ率が低い。今日も買い物帰りにブロック塀から出ている植え込みの陰に、三毛猫の小さい頭が見えたので近づいてみた。勿論、距離は1メートル弱くらい。そうして「コンチニハ。」と小さな声で言ってみたのだけれど、彼女はおびえた顔で後ずさりをし、ポトリと塀の向こうに消えてしまった。ふうむ。メガネを変えたせいだろうか。

家の近所でよく出会うオジサンがいる。彼は髪が薄いことをのぞくと、イッセー尾形によく似ている。彼の職業はペンキ屋さんだがあまり仕事はないらしく、遠くを見ながらいつも少し宙に浮いているようにゆっくりと歩いている。今日は自転車に乗っていた。なんと自転車でも浮いているような走り方だった。
彼の家は、古い平屋の小さな借家で(つまりは私の家と同じタイプなのだが)どうも立ち退きを迫られているような雰囲気だ。周りの家は次々と取り壊されて、彼の家とあと1件残すのみだ。家の周りには何本もの木が植えてあり、今日その前を通ってみると、すでに道からは家の形が見えないほどに生い茂っていた。家の前にはペンキで塗られた金属製の小さな机が置いてあり、近所の野良猫達がその下で餌を食べていたりする。夏の暑い日にはそこに傘がくくり付けられていて、猫達が傘の下に座って涼んでいる。

しかし、私とて絵の具のついたエプロンと腕カバーをつけたまま外に出ることもあるし、他からどう見られていることか・・。