窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

紙-1

今日は風は強いけれど、5月の初日としてはなかなかの天気である。ゴールデンウィークだけれど、今年は飛び飛びなので、今日はまあ普通の日である。家の中にいると祭日か普通の日か区別がつかない。毎日なんの音もしない。街道からは少し奥まっているし、新しく通った大きな通りも未だ立ち退きが上手く進んでいないらしく、すぐ先で工事が止まったままなので車もあまり入ってこない。夏の夜に近所の原付き小僧やスケートボードを練習するオジサン(近所に凝っているオジサンがいる)のズルズルという音がするのみであって、誠に静かである。

今日は佐野さんに教えてもらった紙の職人さんに電話をしてみた。私は電話が苦手だ。ほんとうに。呼び出し音を聞きながら、いなければいいなあ。等と思う。しかしもし留守だったら注文はできないわけだし、それでは困るのだ。
で、少し嗄れた声の職人さんらしきオジサンが出てきた。私は、「あのー恐れ入りますが、そちらで。カ・・」と言ってしばらく間を空けてしまった。カの後はミである。紙の注文のことを尋ねるのだから。そうして、やっと用件を話したのだけれど、注文は葉書などで頼みます。と言われて半ばホッとして受話器を置いた。

葉書を書きながら、いったいどうしたことかと思う。いつも頼んでいる銅版の問屋さんは、ご主人と会ったこともあるし今は道具のことでは相談にのってもらうこともあるし、向こうは江戸っ子だから私が黙っていてもタッタッタッと話してくれるので私はあまり喋らないでフムフムと頷いているだけだし。特にどうもこのところ頭のネジが緩んでいる気がする。少し巻き直さなくてはいけないと思う。