窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

竜巻

足の踏み場もない。とはこのことだ。と、部屋の中を見て思う。
昔。と言ってもいいくらいの時間が経ってしまったということに唖然とするのだけれど、あの、裏の川に東京オリンピックの時に植えたというサクラの巨木の並木になっていた所沢に越した時に、電話を取り付けに来てくれた人が言ったのだ。
「いや、この散らかりようは。・・・嵐が去った後みたいですね。」と。

その時はまだ引っ越しの荷物が散乱していた。そしてそれは、遅々として片づかず、でも、まあ一応収まって、
それから数年して又越して、また片づけて、越して・・・・と繰り返してここまで来たのだった。

台風どころじゃなくて、竜巻だ。それが現在。宅飲みに来ていた友達も全てお断り。休業状態(?)
「遊びに行ってもいい?」と何人かの友人知人が連絡をくれるけれど、「竜巻が去った後のようなの」と、言うと何となく納得してくれる。
「うーん、それはちょっとすごいかも」と。
もう本当に足の踏み場がなくって、まるで池に置かれている敷石に、うまいこと渡るかのごとく、床の空いている場所に私は足を運ぶのだ。


猫はその中でも寝ている。竜巻が去ったような後の、瓦礫(っていうか、一応作品が散乱している)の間に。
寝ていながら、私が少しでも動く度に「にゃー。にゃ、にゃ」と鳴く。
なにゆえか。というと、私に踏まれないためである。
「にゃー、にゃ、にゃ」は、
「私はここにいますよ。いますよ。」
というところ。
もっと大声になると
「踏むなー、踏むな言うとるやろが、このドアホ!」みたいな。
まあ、所沢生まれの所沢育ちの家の猫だから、関西弁ではないだろうけれど、そんな感じ。17歳だし、何語でも喋るんだ。

ああ、早く全てを終えてYちゃんにG街の月の名前の店にに行きたい。もうそれだけを頼りに、残りの数日を生きるとしよう。