窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

ブレーメン

こなつが姿をみせなくなってからも、子猫達は私の家の軒下にくる。朝、二階の雨戸を開けると、相変わらず一件おいた家の辺りから、草原を駆ける馬のようにやってくる。これが馬だったら大変なので、猫でよかったと思うようにしている。
夜になればたいていその家の方向へ帰っていくのだけれど、そうではないときもある。
バタンと大きな音をたてて、雨戸に飛びついたり、バリバリと網戸をよじ登っていたり。
部屋の窓は磨りガラスのガラス障子だ。一番上だけが透明なガラスになっていて、網戸をよじ登ってそこにたどり着いたぎいやんがこちらを見て叫んでいる。
仕方がないので窓だけ開けると、他の三匹は下の方で積み重なって網戸に頭をくっつけて部屋の中をのぞき込んでいた。グリム童話ブレーメンの音楽隊のようだ。童話を読んだ子供の頃は、私はのぞき込んでいる動物達の身になっていたものだけれど、今はのぞき込まれている側だ。別に悪いことはしていないのに。

それから数日後にはガラス窓を開けると、網戸の隙間から全員で顔をこじ入れてきた。シャイニング状態だ。恐ろしいことだ。家の猫も怖がって走りだす。どうしたものか・・・。