窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

沢野さんの個展

今日は水彩画教室の最終日だった。春からの五反田のクラスにも生徒さんの何人かは参加されるということなのだけれど、今年度は一応最後ということで一緒にお昼ご飯を食べた。
 ご飯を食べながら絵について色々と尋ねられたので、私は一生懸命答えようとした。でも答えていることが正解じゃないのは自分でわかっていた。私は皆それぞれが描いている絵を見ながら(こうしたほうがもっといいんじゃないかな。)とか(きっとこういうふうにしたいと思っているんだろうな)と考えながら、手助けするだけだったような気がする。
 「赤と青を混色したら、紫になります。」というのは正解ではあるけれど、色の比率や配色によってはそれは紫というよりも赤と言える時もあるし、青と言えるときもあるのだ。「赤と青を混ぜたら紫」などという単純なことからしてそうなのだから、絵を描くことの色々を、断定的に話すのはとても難しい。少なくとも私にとっては。だからいつも「という場合もあるしそうでない場合もあるけど、このときはこの方がイイと思う。」みたいにしか言えない。そんな何だか頼りない私だったが、生徒さんは皆毎回楽しそうに描いていた。それを見ていると私も描きたくてその日余ったモチーフに使ったミカン等を持ち帰って家で描いてみたこともあったけれど、変にお行儀が良くつまらない絵になってしまった。それはまるで予備校のコンクールみたいな絵で、昼間教室で見た生徒さんの絵の方が良くてがっくりしたものだ。勿論その絵は誰にも見せないのだった。

水彩画教室が終わった後で沢野さんの個展を見にユイへ行った。ガラス張りのギャラリーの中にご本人の姿を発見。入るときに目が合ったので挨拶をしてそそくさと展示室へ行って、絵を見ていた。
 面と向かって話すのは久しぶりなので照れ臭いような気分だし、作品も沢山あったので私は無言のまま絵を見入っていた。少しすると先に来ていたお客さんが帰ってしまい、振り向くと沢野さんが展示室のソファに大の字に寝そべっていた。「外から丸見えですよ。」と、私が言うと沢野さんは起き上がって、「市川は最近なにやってんの」と尋ねた。私はポツポツと単語を並べなおも絵に見入ってても、沢野さんが独り言のように話すので絵を見ることに集中できない。
展示室の奥の絵が好きだった。吹雪の中をどこかへ歩いてく猫(たぶん猫)が手前に描かれている。飛ばされないように懸命に歩いている感じ。吹雪の向こうの遠くの建物の前で男の人が立っている。ガッシュで描かれた大きな作品だ。
 「それは藤森さんの建物」と沢野さんがそっぽを向いて言った。「守矢神長官資料館」だ。以前、沢野さんに「市川の線って、くらぁいもん。僕のはもっと明るくてかわいいもん」と言われたのだけれど、沢野さんだってくらぁいじゃん。と、私は思いながらその絵を見ていた。
 ギャラリーを出るとき、出口に立って見送ってくれた沢野さんの顔は恥ずかしそうだったので私も何だか恥ずかしくなった。