窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

 図書館

リクエストしていた本が届いたと電話があったので、市内で一番大きい図書館に行った。先週借りた本のうちの一冊も返そうと持っていき、返却カウンターにいた年配の男性職員に渡したら、本の裏のバーコードに赤いライトがついている読み取り機をあてて、「ピッ」っと、私が借りた本のデーターを削除してくれた。
 ここまでは普通。
 それから職員が「はいっ」と、私にその本を渡して「もにょもにょもにょ・・・」と何か言った。へ?私はなんだかよくわからなかったけれど、その本を受け取った。職員は「元のところに返して下さい」と言ったようだ。ここではどうやら元の書架に自分で戻すことになっているらしい。越してきて一年経つが、私はこの図書館を利用するのは初めてだった。市内の別の図書館ではそんなことはなかったように思うのだけれど。そうして、以前住んでいた清瀬市でも、返却した本は図書館員がカウンターの後ろのワゴンに入れて、後で整理をするようになっていたのだ。
ここで借りるとき、なんだかずいぶん書架が荒れているなあ。と思ってはいた。ピンチョンの上に、ブローティガンが窮屈そうに横になって積まれていたり。つまりまるで私の家の本棚のように、入りきらない本は隙間に詰められているのだ。本が多過ぎるとも思えないけれど、いずれにしても、図書館員が少ないようだ。
清瀬の駅前の図書館は職員の数も多く西友の上の階にあってとても便利だったけれど、買い物の延長気分で入る人が多いせいかけっこうざわざわとしていた。入り口近くに置いてあった椅子に座った奥さん達が、小声で世間話をしていて、周りで子供達がぐるぐると走っていたり、書架の手前のソファーは、いつ見てもオジサン達が本を開いてひざに置いたまま眠り込んでいた。
ここの図書館はソファーもない。そうしてとても静かだ。本を探している人、読んでいる人。それだけしかいない。壁際の書架は、天井まであって、あちこちに踏み台が置かれている。その踏み台に座って読んでいる人もいるし、柱によりかかって立ったまま読んでいる人達もいる。皆、殆ど動かない。なんだか私は森の中にいるようだった。