窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

旅館

kamaneko2005-07-02

先日、アシカ君夫妻が家に来た。それでこの家の唯一の和室でくつろいだのだけれど、私が「ここを旅館の一室の様な雰囲気にしたいわけで・・」と言うと、夫婦揃って「それは違うだろう」と、声を大にしてのたまった。
「旅館は天井から豚や象はぶら下がっていない」とアシカ君は、バリ土産にもらった私のお気に入りの羽のはえた豚と象の木彫りの人形を見上げて言った。
「家具がないし。」と、アシカ夫人は部屋を見回して言った。部屋にはアンテナが外れたテレビと小学校から使っている安物のクローゼットと、20年近く前にアシカ君が古道具屋で買って、私にくれた文机があるのみ。アシカ君は文机を見ながら「これは今なら7〜8万はするだろう」と満足そうに言った。(そんなにはしないだろう)と私は思ったけれど、黙っていた。
「洗濯物のせいだね。」雨だったので部屋に干してあるシャツを見上げて私入った。「これじゃあ美大生の下宿って感じだね。」
しかし、アシカ君は「あー・・・」と、言いながら豚と象の人形を見上げて「旅館はさあ、ちがうだろう。」とワインを飲みながら繰り返していた。