窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

ユリイカ1月号」を買った。ユリイカを買うのはものすごく久しぶり。知らない間に表紙が写真になっていた。柴田先生翻訳中。というかんじの写真。
 特集は翻訳作法。研究社の金子さんの柴田先生へのインタビューと文章が特集の巻頭。金子さんも英語が堪能なので、かなり細かく具体的な例があげられていたりして面白く、素人の原書読みにとっても参考になる。その後の「徹底検証!柴田元幸の翻訳作法」は、これまでの翻訳書が部分的に原文を照らし合わせて掲載されていて興味深い。
 この中で、柴田先生が電子辞書を使うことについて「便利なものは使えばいいに決まっていますよ。」と言われていたので少しホッとした。

 私は鳥飼に勧められて、数年前に電子辞書を買ったのだ。そのおかげで原書を読む気になったのではあるけれど、紙の辞書で育った世代としては、やはり何となく(いいのかなあ。)という気持ちもどこかにあったわけで。
 私は子供の頃から辞書を引くのが速かった。小学校のころだから国語辞典だけれど、辞書を引く競争(そんなのがあった)を授業でやると、いつも上位だったのだ。引きたい言葉のページの辺りをパッと開くことができる。親指の神経が特別に発達しているのではないかと思ったほどだ。(これは後の郵便局のお正月のアルバイトや西武美術館の葉書売りのアルバイトに役に立った。葉書を数えるのが速くて)英語の辞書は、高校から研究社の新英和を使っていた。これは母のおさがりで、雨に当たって膨れ上がってしまったから・・と、くれたものだった。勿論外箱などはない。高校に入って新しい辞書が欲しかったのだけれど、仕方なく私は膨らんだこの辞書を使っていた。しかし膨らんでいるがゆえ意外に使いやすかった。家には英語辞書はたくさんあったので、私はこの膨らんだ辞書は学校のロッカーに入れっぱなしにしていた。あまりの使いやすさに友人達からもひっぱりだこで、さらに朽ちていき、見た目だけはもの凄い勉強家の辞書のようになったのだった。
 そうして今は電子辞書を使っている。私が原書を読み初めて上達したのは、やはり電子辞書を引く速さであった。語学の方はさっぱり。

 ユリイカ 第37巻第1号青土社\1,300
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