窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

先日、買い物帰りに、夏頃に何匹かの子猫が生まれていた団地の近くを通りかかった。道を挟んだ少し先の植え込みに、親猫と数匹の子猫はワラワラとしていたのだ。そのあたりに目をやると、一匹の子猫が道路を渡ろうと身構えているのが見えた。「危ないな」と、思いながら歩いていくと、白いハッチバックの車が私の後ろからやってきた。ゆっくりと私を追い越していこうとしたときに、子猫は道路を渡り始めた。車は更に速度を落とし、そのうち止まった。子猫はこちら側に出てこない。私が恐る恐る車に近づくと、車内の男の人が救いを求めるような顔で私を見ている。車の下をのぞくと、子猫がタイヤの周りで車を見上げて鳴いている。私は車にそのまま止まっているように合図をして、しゃがんで子猫を呼ぶとトコトコとやってきた。抱きかかえて助手席に乗っている人にみせると、車は発進した。
子猫は銀色の縞で、よく太っていた。顔もつるりと奇麗で健康そうである。特に人を怖がらないようだったが、私につかまえられているのは腑に落ちない様子だったので、車が来ないのを確かめて離してやると、また元の植え込みの中へ走り込んでしまった。猫が生まれてから何度か植え込みの前を通ったのだけれど、夏を過ぎたら餌のお皿が置いてあるだけでしばらく見かけなかった。きっと団地の誰かが可愛がっているのだろうし、私の家からは少し離れた場所だったので、やはり連れて帰るのはためらわれたのだった。
今日も秋晴れ。秋晴れというよりも、もう初冬に近いような風が吹いている。家の猫が日の当たる窓辺に張り付いて寝ていると思ったら、唸り始めた。のぞいてみると新顔の奇麗なサバトラ猫が、庭の端からこちらの様子を伺っている。首から下の腹の辺りが白く、鈴のついた赤い首輪をしている。なかなか品の良さそうな若い猫である。しばらくこちらを伺っていたが、家の猫のうなり声に脅えて近寄らず、そのうちくるりと戻っていってしまった。
家の猫には好き嫌いがあるようで、アカやハケや大チャンにたいしては、フレンドリーだった。クロに対しても何も言わない。もっともこれはクロが恐ろしくて声がでないのかもしれないが。ボウシさんのことは嫌いで、パルルやダンナに対しては怒らなかった。あの子猫を連れてきたら、どうだったろうか。多分あまり好きなタイプではないような気がする。
この辺りは猫が多い。飼い猫も野良猫も。庭に留まっているのは、ハケだけだけれど、色々な猫の通り道にはなっているようだ。ここに越してきた当初は、ヨレヨレのやせこけた猫が多かったのだけれど、最近は、近所の猫達は栄養が良いらしく皆太っている。けっこうなことである。