窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

師匠と待ちあわせてTISの展覧会へ。今年はメンバー150人が自分でセレクトした映画のイラストを描くというもの。私は会員でも何でもなく、ただ師匠に会って絵を見るだけのつもりだったのだけれど、その日は、来場する大御所イラストレーター達と自由に話ができるという夜だったらしく、サインをもらったり、自分の作品を見てもらうために大きなファイルを抱えた若いイラストレーターの卵達でごった返していた。師匠がなかなかこないので、私はボンヤリと和田さんに絵を見てもらうために並んでいる列を眺めていた。
 皆真剣。和田さんもメガネをかけたり外したりしながら、ひとりひとりの膨大な量のイラストを丁寧に見て感想を述べていらした。さすが、和田さん。私はそのイラストを覗いたり、耳をダンボにしながら話を聞いていた。

遅れて師匠が登場し、駆けつけ2杯のワインでほろ酔い気分になったところへ、やはり若者の列が・・・。「イラストレーターになりたい!」「認められたい!」「売れたい!」と言う人たちに、師匠は酔っぱらっているのか辛辣なことを述べていた。私はワインを舐めながらニマニマと聞いていた。

その後、師匠と私は会場を抜け出して夜の銀座へ。2件めに連れていってもらった7丁目の老舗のバー「クール」は感動的なたたずまいだった。白髪のママさんと、バーテンダーの御主人。洒脱と言う言葉はこういう人たちのためにあるのだろう。

「ヨーコは、売れたいとかそういうの無いよね〜。」と、帰り道、酔った師匠が呑気な声でのたまう。展覧会会場の一生懸命な目をしたイラストレーターの卵達を思い浮かべ「はあ〜。体質すかねえ。」と、私は答える。以前私の担当編集者が「市川さんの描く顔って、やる気無さそうな表情ですよねえー。」と言っていた言葉が身にしみる。いや、そんなことはないのだ。やる気もあるし、根気もある・・多分。