窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

梅雨が近いような蒸し暑い日。去年の暑さを思うと、ぞっとする。しかし、暑くなって庭のラズベリーが一気に色づいた。最初は庭の端に植えていたのだけれど、枯れかかったので中央に移したら、あっという間に大きくなって他のものを押し倒すいきおいである。緑色の中にまだ薄赤い、普通のイチゴと比べると、まあ中くらい大きさの実が点々とついている。後1週間くらいが食べごろか。人間にとっても、ヒヨドリにとっても。

先週、雨の日だったが、和紙を買いに日本橋へ。そこには色々な土地の和紙が置いてあるが、値段は勿論現地で買うよりは高い。裏打ち用の紙を捜して色々と見てみると、私が佐野さんに教えられて使い始めた土佐の和紙が高い棚に乗っていた。価格もずいぶんと高い。店にあるものは私が買った全紙などではなく、長い判を巻いて丁寧に包装されている。何だかよそ行きの服を着た友達に会ったような気持ち。

紙の棚の中を歩いていると、草や灰やそんな懐かしい匂いがする。鼻をひくつかせて店の中を歩き回っている私を怪しんだのか、店の人が近づいてきて私の隣に立って棚の整理を始めた。私が移動すると彼女も移動してくる。そこで裏打ちのことを話し、あたりをつけた何種類かの紙の説明を求めた。

店員さんに刷りに使っている紙は何かと訊かれ、土佐の和紙だと言うと「ああ、これは良い紙ですからね。」とその紙の包みを軽くポンポンと叩いた。良い友達を持っていますね。と言われたようで、嬉しい。裏打ちの紙は、楮100%の韓国の紙に決めた。一番厚手で10匁。手漉きなのに日本の和紙の価格よりは安いが裏打ちだけに使うにはもったいないような紙だ。これに刷ってみたらどんな味わいだろう。と、思ったけれどそれではまた裏打ちの紙を捜すことになるわけで、取りあえず10枚購入。