窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

6時前。もうすでに日が昇っている。リストを作ったりしているうちに9時になり、獣医さんへ予防注射のため猫を連れていった。連れていったと言っても勿論それようのバッグにいれて運ぶわけで、このバッグを買ったころにはゆるゆるだったのに、今はぎゅうぎゅうである。肩にかけるとズッシリと重い。その窮屈なバッグの中で、おびえて向きを変えようとするからたまらない。いびつに動き、時々泣き叫ぶバッグを担いで電車で2駅の病院へ。

大病で毎日通っていたときと同じように、待合室にはクラッシックが流れ高そうな犬達が上目遣いで私のバッグを見ている。幸い近よって来る犬は今日はいなかった。犬がそばに来ると、私の猫はうなり声をあげて威嚇するのだ。病院に来ている犬は、たいていオドオドとしているので、唸られると後ずさりをしてしまう。するとその犬の飼い主さんは「いやあねえ。」と言ってご自分の犬の頭を撫でる。私は診察室に呼ばれるまで、うなり声をあげているバッグを抱えて肩身の狭い思いをすることになる。

5キロ・・・・・太りましたねえ。と新しい獣医さんに言われた。ここは若い獣医さんがたくさんいて、最近は1年に1度注射の時にしか来ないのでいつも違う先生になる。今の猫の状態は大病をしたのが嘘のようだ。あの時お世話になった2人の先生に、今の姿を見せたい。体重は倍になりました。やれやれ。

新しいフードにしてから、モリモリと食べてこんなになってしまったのだ。家に戻ってから、猫は機嫌が悪くてふてくされている。注射のせいもあるのか、ややだるそうに部屋の真ん中にバタンと倒れてトドのように寝ていたかと思ったら、机の上にあるフードを入れたカップをくわえて持っていこうとしていた。

昨日はモチーフ用に牛乳瓶を10本運んで、今日は5キロの猫を運んだ。そのせいか、久しぶりに肩に激痛が走る。それでもこんなに天気が良いので、またドーサを引いた。すぐにぱりっと乾いて気持ちが良い。しかしバタバタと仕事をしているうちにあっという間に夕方になってしまった。こういうぐったりしているのに天気だけが良い夕方にはデビッド・サンボーン(しかもマーカス・ミラーがプロデュースしているやつ)などを聴いたりすると頭が空っぽになってよろしい。あー、なんてブカブカしたサックスなんだろう。でも、部屋を片づけたりするときには良いのである。

ドーサ引き用の刷毛を軒先に干した。夕暮れの風でフラフラ揺れている。欲しい刷毛はまだ何本もあるが、とても高い。そんな刷毛を全部そろえて、洗って軒先に並べて干してある光景を思い浮かべただけでも幸福な気分になる。が、そんな気持ちに同意してくれるのは、私の友人では佐野さんくらいだろう。