窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

[日々


所謂花見はあまりしない。人だらけだから。
以前住んでいた家は畑の真ん中で、周囲は桜よりも梅が多かったが、駅の反対側は病院街で、どの病院にも必ず桜が植えられていた。
昔、結核療養所だった病院の裏庭には、桜の園と呼ばれる桜の林があり、花見の季節にはスリッパを履いてカーディガンを肩にかけた患者さんたちが、空を見上げていた。昔、入所者たちが植えた桜は、間隔が狭いからかそういう種類だったのか、枝は横に広がらずに上へと伸び、桜の花は高い空で揺れていたから。
病院に挟まれた通りの正面に、桜の花が空に浮かぶように見えるのは全生園だった。都内よりも少し遅く、何となくひんやりとした空気が流れる街だったけれど、今日はもう満開かもしれない。
久米川、そして全生園が舞台だった「あん」(河瀬直美監督)を数日前に観た。映画の中でも桜が咲いていた。