窯猫通信覚書

絵描き・銅版画で本の挿画等描いている市川曜子の銅版画日記です。

冬の桃

私は今はテレビは見ていないのだけれど、昔はテレビっ子だった。
その中で覚えているのはNHKのドラマが多いのだけれど「冬の桃」(早坂暁脚本)はもう一度見てみたい物のひとつ。

今調べてみると全7回となっているから、それほど長い番組ではなかったようだけれどなんとなく覚えていて、番組の終わりだったか、西東三鬼の句が詠まれ、筆で書かれた文字が画面に現れたような気がする。有名な水枕の句以外は忘れていたけれど、時々、もう一度見たくなるドラマでもあった。(他には同じ早坂暁脚本の「花へんろ」も)


先日、図書館に行ったら、西東三鬼の著書「冬の桃」があったので借りてきた。原作とドラマは全然違う。と、言われていたようだったけれど、私はドラマの配役と設定以外はあまりよく覚えていなかったので、読み始めるとそれまで写真の中で静止していた俳優達が、いきなり動き出したように思えた。
いつも不機嫌そうな顔の小林桂樹や、やけっぱちのような三田佳子や、大竹しのぶや・・・。
それはまるで私が忘れていた実体験を、また再現しているかのような、不思議な感覚でもあった。

ドラマでは港町の上空をアメリカ軍の飛行機が飛んでいて、全体的に厭世的な空気が流れていたような感じがしていたけれど、実際の登場人物達は、もっと積極的で生きることに貪欲のようだった。


「冬の桃」に収録されているものは、タイトルがオリジナルタイトルに戻されたらしく講談社文芸文庫で読むことができる。

神戸・続神戸・俳愚伝 (講談社文芸文庫)

神戸・続神戸・俳愚伝 (講談社文芸文庫)